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国際テロ情報ファイル(3):2015年11月13日「パリ同時多発テロ」

テロ パリ フランス ベルギー 国際テロ情報ファイル Mar 28, 2024
連載コラム|国際テロ情報ファイル

オンラインアカデミーOASIS学校長で国際政治アナリストの菅原出が、過去に発生した重要なテロ事案を取り上げて解説する新シリーズ『国際テロ情報ファイル』をお届けします。

ラマダン期間の金曜日にあたる2024年3月22日、ロシアの首都モスクワ郊外のコンサート会場で過激派イスラム国(IS)による襲撃テロが発生しました。大勢の人が集まるコンサート会場が襲われたという点で、このテロは2015年にパリのバタクラン劇場で発生したテロを思い出させる事件でした。

第3回目は、2015年11月13日にパリを襲った衝撃的な同時多発テロを取り上げます。

(photo: Wikimedia Commons)

目次

  1. 1. 何が起きたのか? 事件の詳細
  2. 2. ベルギーを拠点とした実行犯グループ
  3. 3. テロの傾向:標的はソフト・ターゲット
  4. 4. 生き残った人々の証言
  5. 5. 銃撃テロへの対処の基本
  6. 6. 普段からの予防策

1. 何が起きたのか? 事件の詳細

2015年11月13日21時20分、パリ中心部6カ所でほぼ同時連続的に自動小銃と爆弾によるテロ攻撃が発生、130名が死亡、350名以上が負傷した。このテロは、同年1月から高度な警戒態勢をとってきたフランス治安機関の監視の目をかいくぐり、テロリストたちがこれほど計画的で組織的なテロを実行できたという点で、計り知れない衝撃的なインパクトを世界の治安関係者に与えた事件である。 

テロ実行犯は3つのグループに分かれて21時20分頃に攻撃を開始。一班は3名編成でロック・コンサートの行われていたバタクラン劇場を襲撃。コンサートに集まっていた観客を無差別に乱射して殺害し、一部の人質を2時間近く拘束した後、警察の突入に合わせて2名のテロリストが自爆、1名は警察に射殺された。警察は劇場を0時20分に制圧したが、89名の死者が出た。

2班も3名編成。目標はパリ郊外サンドニ市の競技場「スタット・ド・フランス」。21時20分に競技場のゲート前で1名のテロリストが自爆し1名の通行人も巻き添えで死亡。ちなみにこのチームはテロに失敗していた可能性が高い。彼らの一人はサッカー観戦のチケットを持っており、競技場の中に入ろうとしたところ、警備員に止められて逃げていたことが伝えられた。もし3名の自爆テロリストが競技場内でテロを起こすことに成功していたら、さらに被害は大きかったと思われる。

3班は2名編成で、車両でアルベルト通り沿いに到着、レストラン「Le Petit Cambodge」とカフェ「Le Carillon」」に向けて店の外から乱射し15名を殺害。続いて少し離れたバー「A La Bonne Biere」前の交差点で乱射し5名を殺害。カフェ「Le Belle Equipe」のテラスにも乱射して19名を殺害。その後実行犯の一人がレストラン「Le Comptoir Voltaire」に入り自爆した。

(map: Wikimedia Commons)

8名のテロリストは全員高性能爆薬「TATP」で作られた同じタイプの自爆ベストを身に着けており、そのうち6名は起爆させて自ら命を絶った。実行犯の一人は逃亡した。

2. ベルギーを拠点とした実行犯グループ

実行犯の一人は、パリ南部クールクロンヌ出身の29歳の男性イスマエル・オマル・モステファイ容疑者で、犯罪歴が有り、過激なイスラム思想を持っていることで警察の要注意人物のリストに掲載されていた。2013年秋にシリアに渡り、2014年春にフランスに帰国。メンバーの中の3名は兄弟でそのうちの2人がイブラヒムとサラ・アブデスラム容疑者であることも判明。仏警察はサラ・アブデスラム容疑者の写真を公開して指名手配を開始。2人とも過去数年間ベルギーに住んでいた。

もう一人の実行犯ビラル・ハドフィもベルギー在住でシリアに渡航してISに加わって戦闘に従事した。その他2名のうちの一人はベルギー在住のフランス人で競技場前で自爆した20歳とレストランで自爆した31歳の男性だった。

さらにもう一人は10月3日にギリシャに難民として入国した記録を持つ25歳のシリア人だった。

実行犯グループは、ベルギー在住のイスラム過激派コミュニティと深くかかわっており、フランスとベルギーの国境を越えてテロの準備、計画を行っていた。また、実行犯メンバーの数名はシリア渡航経験があり、現地でISに加わって戦闘に従事した経験があった。取り扱いの難しいTATPを使った自爆ベストは、爆発物のエキスパートが製造したものだった。

テロが実行される前日に、イラク外務省が「ISのテロが迫っており、とりわけフランス、米国とイランが標的にされる可能性が高い」とする警戒情報を発していたことから、ISの中枢指導部から何らかの指示や命令が出ていた可能性があった。

今回のテロ事件では、ISに忠誠を近い、自爆を厭わない過激な欧州の若者たちが、先進国の治安機関の厳しい監視にも関わらず、国境を越えて軍用の武器を調達し、連携を取りながら綿密なテロ計画を立てて実行できる能力を示したことになった。

バタクラン劇場の襲撃時、一人が自動小銃を撃ち続けている間に、もう一人が弾倉を詰め替えていたとの証言があり、テロリストたちが、チームでのルーム・コンバットの訓練を受けていた様子も確認された。実行犯の何人かはシリア渡航経験があったことから、中東の紛争地と欧州の中心部を彼らが比較的自由に往来できており、警察や情報機関の監視が追い付かないほど、そうした過激派のネットワークの裾野が広がっていることも懸念材料だとされた。

テロの首謀者はアブデルハミド・アバウド。ベルギーのモーレンベークで服屋を営む中流家庭に生まれたモロッコ系ベルギー人。欧州でのリクルート活動を理由に国際指名手配を受けており、ISの広報誌『ダービク』に顔写真入りで掲載されるなど、欧州治安機関にはよく知られた人物だった。

3. テロの傾向:標的はソフト・ターゲット

今回襲撃された6カ所はすべて「人が多数集まり、警備の手薄な」ソフト・ターゲットだったことから、過激派たちは最大限の死傷者を出し、恐怖のインパクトを与えるのに適した場所を選んでいることも特徴的だ。また今回襲撃されたバタクラン劇場のオーナーはユダヤ系で、ここはイスラエル治安機関と関係が指摘されたことから、2011年にJaish al-Islamのテロ計画の標的にされたこともあったという。イスラム過激派からは以前から目を付けられていた場所だったわけで、実行犯はそうした地元の事情にも詳しかった可能性がある。

IS系テロリストは政府施設や一流ホテルなど警備の厳しいハード・ターゲットではなく、ソフト・ターゲットを狙うことでテロ成功の確率を上げ、最大限の宣伝効果を上げることを、優先させる傾向が強いと考えられた。

4. 生き残った人々の証言

この同時多発テロでもっとも多くの死傷者の出たバタクラン劇場で生き残った人々の証言から、とっさの行動が生死を分けたことがわかる。危機に遭遇した際の対処について考えるうえで参考にしていただきたい。

「床に伏せてまったく動かずに死んだふりをした。足をけ飛ばされ、死んでいるかどうか確かめられた。」

「ステージの下の地下室に閉じこもり内側からバリケードをして3時間隠れた。」

「銃声を聞くとすぐに非常口に向かって走った。銃弾が足にあたり倒れた。テロリストが弾倉を付け替える時に一瞬銃撃がやんだので、その度に匍匐前進をしながら非常口を目指した。やっとドアに手が届くところまで這っていき、指がドアにかかると渾身の力で外に出た。非常口から外に出ると周囲にいた人が助けにきてくれた。」

「トイレに隠れた。後からあとから人が入ってきて20人くらいで隠れた。」

「2階の窓から飛び降りた、窓枠にぶら下がった。」

5. 銃撃テロへの対処の基本

実際に危機に遭遇した際に100%安全を確保できる対応策は存在しない。すべては状況次第だが、いくつか基本的な対処法を整理しておきたい。まずは基本をしっかりと身につけることが重要である。

RUN: 逃げられたら逃げる。銃声のような音が聞こえたら銃撃テロの可能性を疑い避難行動をとる(間違えであれば後で笑えばいい)。花火や何かの演出だと楽観的に考えがち(正常性バイアスに注意)。

HIDE: 隠れる。中からロックの出来る場所を探して隠れる。可能であれば重いテーブルや家具などでバリケードをつくる。隠れる時は警察に発見されるまで静かに隠れ続ける(通常、警察の救出には数時間かかる)

RUNもHIDEも出来ない場合:床に伏せる。頭だけでも隠す、もしくは手で覆う。床に伏せたらとにかく死んだように動かない。一度銃撃が始まったら他に出来ることは少ない。全く動かず死んだと思わせられる。(ただ床に倒れている人を確実に殺すために何度も撃つケースもある)。逃げる機会を伺い、可能ならばより安全な場所へ逃げる。

6. 普段からの予防策

  • ・周囲を観察する。店や電車にいる時、入ってくる人を確認する習慣をつける。少しでも変だと感じたら離れる。
  • ・避難ルートを知っておく。職場であっても劇場であっても常に非常口を確認し、非常事態が発生したらすぐに避難できるようにする。緊急時にどっちに逃げればいいか分かっているというのは極めて貴重な知識。
  • ・劇場やコンサートホールなどでは、ホールの中央ではなく、非常口に近い席に座る。
  • ・電車内では「緊急通報」や「非常停止」のアラームやボタン、消火器の位置を確認する。
  • ・動きやすい服を着て、走りやすい靴を履く。
  • ・少しでも早く逃げ、伏せ、隠れ、よじ登ったり駆け下りたりするため。
    身体を鍛える。素早く動けるようにする。
  • ・ファーストエイド、特に止血処置を覚える。
  • ・上着の内ポケットに名刺、手帳、携帯電話、パスポート等少しでもプロテクションとなるものを入れる。
  • ・バッグに厚手の書類、雑誌等少しでもプロテクションとなるものを入れる。

 

菅原 出
OASIS学校長(President)


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