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悪夢のシナリオが現実化する中東大戦争の今後

アメリカ イスラエル イラン 学校長 飛耳長目 Mar 02, 2026
連載コラム|菅原出飛耳長目

こんにちは。オンラインアカデミーOASIS学校長の菅原出です。

目次

皆さま、大変ご無沙汰しております。しばらくこのコラムをさぼっている間に、世界はとんでもないことになっています。「イラン最高指導者殺害」「ホルムズ海峡封鎖」など、この地域の国際政治を追っている者にとって、「悪夢のシナリオ」と考えられていたような事態が、目の前で起きています。

ハメネイ師が殺害されるようなことになれば、イランは全力で報復攻撃を行い、戦火は中東全域に拡大し、世界の物流の大動脈であるホルムズ海峡も封鎖される…、誰もが「そこまではいかないでしょう」と思っていた事態が現実になっているのです。

なぜこのような事態になってしまったのか。今後どうなる可能性があるのか。今回はこの問題について深堀していきたいと思います。

1.軍事作戦の開始と各国首脳の声明

2026年2月28日、イスラエルと米国は、イランに対し大規模な合同軍事作戦を開始しました。イスラエルのカッツ国防相は声明で「イスラエル国家への脅威を除去するため、イランに対する先制攻撃を実施した」と表明。同氏は「全国的に即時非常事態宣言を発令した」ことを発表。

トランプ大統領は、動画を公表してこの軍事作戦の目的について次のように述べました。

「目的はイランという凶悪な集団による差し迫った脅威を排除し、米国民を守ることだ。イランの脅迫的な行動は米国や各地の米軍基地、世界中にある我々の同盟国を直接危険にさらしている。」

イラン・イスラム共和国は、建国以来米国を敵視し、1983年にはイランの代理組織がベイルートで海兵隊兵舎爆破事件を実行し、241名の米軍関係者が死亡させ、さらにイラク戦争後のイラクでは数百名の米軍兵士を殺害・負傷させた、とトランプ氏は歴史的な経緯を説明。

「これは大規模なテロ行為であり、我々はこれ以上容認しない」「イランは世界一の国家テロ支援国であり、つい先ごろも抗議活動中の自国民数万人を街頭で殺害した」と述べ、このようなイランの体制をこれ以上容認しないと明言しました。

そして、「米国、特に私の政権は一貫して、このテロ政権が核兵器を保有することを決して許さないとの方針を一貫して持ち続けてきた。(中略)彼らは核計画の再建を試み、長距離弾道ミサイルの開発を継続した。近く米本土を射程に収める可能性がある」と説明。

要するに米国にとって危険な活動を継続するイランの現体制はけしからん、とトランプ大統領は断じたのです。

さらに「イラン革命防衛隊、武装勢力、全ての警察官に告ぐ。武器を捨てれば完全な免責を与える。さもなければ確実な死に直面する。偉大で誇り高きイラン国民よ。我々の作戦終了後、政府を掌握せよ。一世一代の機会になる。米国は圧倒的かつ破壊的な武力で支援する。今こそ自らの運命をつかみ、手の届くところにある繁栄と栄光の未来を切り開く時だ」と述べ、イラン国民に政権奪取を呼びかけました(i)

これは米国がイランの体制転換(レジーム・チェンジ)を目的とした軍事攻撃に踏み切ったことを意味しています。トランプ大統領は数ある政策オプションの中から、もっともリスクが高く、もっとも達成困難な目標を設定した軍事攻撃にゴーサインを出したことになります。

また、イスラエルのネタニヤフ首相も、国民向けの動画メッセージで、今回の作戦がイランのもたらす「イスラエル存亡の脅威を除去」し、イラン国民が自らの運命を変える「条件を整える」ためだと説明。「今こそイラン国民全体が専制の枷を除去して、自由で平和を求めるイランを実現する時だ」と訴えました(ii)

この発言から、イスラエルも、米国と完全に歩調を合わせて、イランのレジーム・チェンジに向けて動き出したことが明確です。つまり、米国とイスラエルは、昨年の12日間戦争とは完全に次元の異なる目標を掲げた戦争に突入したのです。

2.初期攻撃の実態:作戦の規模と標的

この目標を達成するため、米国は初期の攻撃ではイランのミサイル能力とミサイル発射装置に焦点を当てた攻撃を実施する一方、イスラエルはイラン政権指導部の殺害と防空システムやミサイル能力を標的とした攻撃を行いました(iii)

米当局者によれば、米軍の攻撃対象はイラン国内の軍事施設や核施設に加え、イランが引き続き保有しているとされる2000発とも言われるミサイルだったようです。その大半はイスラエルや中東地域の米軍を脅威にさらす短・中距離弾道ミサイルであり、イラン全土の発射拠点に分散配備されているこれらのミサイルが当面の攻撃目標になるでしょう(iv)

一方、イスラエルは初期の段階でイランの政治・軍事指導者に対するピンポイント爆撃を実施。
この初期の作戦で、最高指導者ハメネイ師をはじめ数十名の政府高官や軍の指導者が殺害されたと伝えられています。

3月1日、イラン国営通信IRNAは、イスラエルによる前日の攻撃で、最高指導者ハメネイ師が殺害されたことを報じました(v)

3.イランの反撃と周辺地域への影響

これに対してイランは、イスラエルだけでなく、周辺のアラブ諸国、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、クウェート、ヨルダンそしてサウジアラビアに弾道ミサイル及び無人機による報復攻撃を行いました。イスラエルの報道によれば、戦争開始から最初の24時間にイランは合計約300発のミサイルを発射したとされています。

また、イスラム革命防衛隊(IRGC)は、世界的な海上輸送路であるホルムズ海峡が船舶に対して「事実上閉鎖された」と発表。その後、IRGCは石油タンカーへの攻撃も開始して積極的にホルムズ海峡封鎖作戦を展開しています。

イランは、米・イスラエルがレジーム・チェンジを目的にした攻撃を仕掛けてきたことに対し、イスラム共和国体制の存続をかけて、持てる手段をすべて総動員して抵抗する姿勢を鮮明にしています。

イランが攻撃を受けて即座にアラブ諸国への報復攻撃を行ったのは、アラブ諸国の経済、つまり世界経済を「人質」にとるためだと考えられます。これはアラブ諸国がもっとも回避したかったシナリオであり、当然米国も避けたかったことです。こうした攻撃に出ることでイランは、「やめて欲しければ、お前たちも攻撃をやめろ」と脅すことが可能になります。

さらにイランは、イラクのシーア派民兵組織やレバノンのヒズボラなどのいわゆる「代理勢力」に米国権益やイスラエルに対する攻撃を命じたり、世界中にいるエージェント等を総動員して米国にテロを仕掛けるなどの工作も行っているようです。

4.今後の戦況分析と見通し

今後のリスクを考えるうえで重要な要素の一つは、イランがどれくらいミサイルを撃ち続けることができるのか、という点でしょう。

イランが現在保有しているミサイルの総数については諸説あって正確な数はわかっていません。イランは、昨年の12日間戦争前までは「3,000発」のミサイルを保有していたと言われていて、イスラエルは昨年の攻撃で1,000発を破壊したとしていますので、現在も2,000発程度を保有しているという情報が有力です。

もし2,000発だとして、イランは初日の攻撃で300発を発射していますが、このペースで撃ってしまえば、一週間程度で弾薬が枯渇する計算になります。もしイランがその倍の数のミサイルを保有していたとしても二週間が限度ということになります。米国もイスラエルもイランのミサイル備蓄やミサイル発射台を破壊する攻撃をしていますので、実際には、イランが使えるミサイルの数はもっと少ないはずです。

ただし、米国もアラブ諸国も、イランが保有するミサイルよりも少ない数の迎撃ミサイルしか保有していないはずですので、ただ飛んできたミサイルを迎撃しているだけでは米・イスラエル・アラブ側が弾切れになってしまう可能性があります。そこで今後重要なのは、いかに米・イスラエル軍がイランのミサイル発射装置を見つけ出し、イランがミサイルを発射する前にそれらを破壊できるか、になるでしょう。

初日の攻撃に続き、今後の米・イスラエル軍の作戦はそこに焦点をおいたものになると思われます。

今後数日間、イランによる報復攻撃はハイペースで行われる可能性があり、最大限の警戒が必要です。ただ、イランとしては、ミサイルを撃ち尽くしてしまえば戦いが終わってしまうため、無人機と弾道ミサイルや巡航ミサイル攻撃のパターンを変えながら、相手国の防空網の隙間を見つけるような攻撃を行ってくるものと思われます。

5.長期的な戦略的考察

 イランの基本的な生存戦略は、米国や世界がもっとも避けたいと思っている、紛争の拡大、泥沼化に引きずり込むことだと考えられます。たとえ一日に数発程度であったとしても、近隣アラブ諸国にミサイルや無人機を撃ち続けることができれば、世界経済に甚大な影響を与え、世界の厭戦気分が高まるでしょう。ホルムズ海峡封鎖状態を長期化した場合も同様の効果が生まれます。

要するにイラン攻撃を行うことのコストを最大化することで、米国がこの戦争を持続することができなくなるように仕向けるのです。アラブ諸国に対する無人機攻撃が続いて空港が閉鎖する状態やホルムズ海峡が閉鎖される状況が長引けば、世界がこの戦争をやめて欲しいと考え、米国民の反発さえ高まることになるでしょう。そうなることで米国やイスラエルの攻撃をやめさせることを、イランは狙うでしょう。

逆に米国としては、そのような泥沼に持っていかれた場合は不利になるため、短期間で決着をつけたいと考えるはずです。トランプ大統領は4週間という数字をあげました。米国とイスラエルは、短期間でイランのミサイル能力を破壊して、同時にイラン国内の保守強硬派の指導者たちを弱体化させ、革命防衛隊や国内治安機関の末端の戦闘員たちの抵抗の意志を挫き、これら実力部隊を内側から崩壊させることを狙っているのでしょう。

イランの国家としての防衛力を破壊し、国内統治機構を内部から崩壊させるような、軍事作戦と工作活動を組み合わせてイランのレジーム・チェンジを達成する、これしか、イラン・イスラム体制を打倒するという、米・イスラエルの掲げる目標を達成することはできないのではないか、と思います。

当面の焦点は、米・イスラエルが、どこまでイランの軍事力、とりわけミサイル能力を破壊して、周辺アラブ諸国への報復を防ぐことができるのかという点です。今後どんな展開になるのか、引き続き注意して追っていき、このコラムでも報告させていただきます。

 

ちょうどイランについては、専門家である坂梨祥先生による「イラン基礎講座」が2026年2月27日に公開されました。今後のイランの「かたち」を考えるうえでも基本となる情報が満載ですので、ぜひご視聴ください。

また、2026年2月に飯田将史先生の「第2次トランプ政権下の中国の国家戦略」も3回シリーズで公開されています。こちらも必見です。

 

世界は、まさに100年に一度の大きな変動期を迎えています。歴史や地政学をはじめ、国際政治や安全保障を学ぶことがますます重要な時代になっています。共に学んでいきましょう。

OASIS学校長(President) 菅原 出


[i] Times of Israel, “Full text of Trump’s declaration of ‘major combat operations’ against Iran”, February 28, 2026

[ii] Times of Israel, “Full text of Netanyahu’s message as Israel, US strike Iran: We will remove ‘existential threat’”, February 28, 2026

[iii] Axios, “Israel targets Khamenei, top leaders in bid to bring down Iran's regime”, February 28, 2026

[iv] The New York Times, “Initial Focus of U.S. Strikes in Iran Is Military Targets”, February 28, 2026

[v] The New York Times, “Live Updates: Iran Says Supreme Leader Died During U.S.-Israeli Strikes”, March 1, 2026

 

 


悪夢のシナリオが現実化する中東大戦争の今後

Mar 02, 2026