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米イラン戦争「攻撃命令」と土壇場の見送り──時間はどちらに味方するのか

アメリカ イラン 学校長 飛耳長目 May 21, 2026
連載コラム|菅原出飛耳長目

こんにちは。オンラインアカデミーOASIS学校長の菅原出です。

イラン戦争が始まってから3カ月近くが経過しようとしています。停戦はかろうじて続いていますが、双方の対立はむしろ硬直化し、トランプ大統領は「攻撃命令」を出しては土壇場で見送るというパターンを繰り返しています。今回のコラムでは、この「延命措置」状態の停戦の下で何が起きているのか、そしてなぜ「決断の先送り」が戦略的にはイランを利する結果になり得るのかを整理してみたいと思います。

目次

1.「延命措置」の停戦と双方の硬直化

米国とイランの対立は「戦争でも平和でもない」曖昧な状態へと落ち着きつつあります。低強度の衝突こそ散発するものの、停戦期間はすでに開戦から停戦までの戦闘期間とほぼ並びました。

トランプ大統領は5月11日、停戦は「延命措置」の状態にあると警告し、「イランは我々が疲れるか、エネルギー価格高騰で終結圧力にさらされると考えているようだが、何の圧力もない我々は完全な勝利を収める」と語気を強めました。一方のイラン側も、自国を勝者として描き、ガリバフ国会議長は「いかなる侵略にも相応の報復を行う準備ができている」と警告しています。両国は戦闘再開の代わりに、互いに張り合う封鎖措置の強化に走っているのが現状です。

2.米情報機関が明かす「崩壊したイラン軍」像の虚構

5月初めにまとめられた米情報機関の機密評価は、トランプ政権が公の場で描くイメージとはまったく異なる現実を浮き彫りにしました。

最も衝撃的なのは、ホルムズ海峡沿いのミサイル基地33カ所のうち、なんと30カ所をイランがすでに運用可能な状態にまで回復させているという分析です。地下ミサイル貯蔵・発射施設の約9割へアクセスを取り戻し、戦前のミサイル備蓄の約7割、移動式発射台の約7割を維持。米・イスラエル軍は初戦で地下施設の地上部分を破壊したものの、肝心の地下にある弾薬庫には手が届かず、イランは停戦期間中に粛々と態勢を立て直していたわけです。

しかも、イランは開戦時に約3カ月の長期戦を想定し、攻撃を3カ月維持できるようミサイル使用を制限していたとも見られています。

対照的に深刻なのが米軍側です。トマホーク、パトリオット、ATACMSなど主要弾薬の備蓄をほぼ枯渇させてしまいました。長距離ステルス巡航ミサイルは約1,100発を消費し、これは残存備蓄総数に近い水準。トマホークは年間調達数の約10倍、パトリオットは2025年の生産ペースで2年分以上を使い切りました。補充には数カ月ではなく数年を要する見通しで、再攻撃に踏み切る際のジレンマがここに浮かびます。

3.ホルムズ海峡支配の「制度化」が進行中

そうしたなか、イランはホルムズ海峡の「定義」を一気に拡大してきました。革命防衛隊海軍の高官は、従来はホルムズ島周辺の限られた海域とされていたものを、ジャスクの海岸からグレーター・トゥンブ島に至る数百マイルに及ぶ範囲だと主張。さらに軍報道官は5月13日、米国の武器が海峡を通過して地域基地へ輸送されることを今後許可しない方針を表明しました。バーレーンの米第5艦隊、UAEの仏軍基地に向かう艦艇まで対象に含まれかねません。

加えて革命防衛隊系メディアは、海峡を通る海底光ファイバーケーブルへの主権主張にまで踏み込みました。「ケーブルは船舶と同等の地位を有する」とし、外国ケーブル事業者への年次ライセンス義務化や、Google・Microsoft・Meta・Amazonをイラン法下で事業させる構想まで提案しています。実現すればイランに新たな収入源をもたらし、軍隊再建も可能となります。

そして注目すべきは、イラクとパキスタンがすでにイランと個別契約を結び、ペルシャ湾からのLNG・原油輸送について安全航行を確保したという事実です。直接の支払いはしていないとされますが、これは各国がイランの事実上の支配権を国際的に追認していく序章となりかねません。

4.交渉の構造的破綻

5月10日、イランは合意のための提案を米国に送付しましたが、トランプ大統領は「全く受け入れられない」と一蹴。これに対する米国の5条件が17日、IRGC系のファールス通信に報じられました。①戦争賠償の拒否、②400キロの高濃縮ウランの米国移送、③稼働中の核施設を1カ所に限定、④凍結資産の25%以上の解放拒否、⑤交渉成功時のみ戦争終結し将来の不可侵保証はない──という強硬条件です。

イラン側の条件は戦争終結、制裁解除、凍結資産解放、戦争関連損害への補償、ホルムズ海峡主権の承認。双方が中核要求=原点に戻って強硬姿勢を維持し、外交解決が不可能と思えるほどの隔たりとなってしまいました。

15日、トランプ大統領は中国から帰国し、機内で記者団に「最初の文が気に入らなければ、ただ捨ててしまうだけだ」と吐き捨てるように発言。同日米国防総省は、停戦時に一時停止された「エピック・フューリー作戦」が新しい名称の下で数日以内に再開される可能性に備えていると報じられました。

5.UAEバラカ原発攻撃という警告

そんな緊迫した空気のなか、17日、世界を驚かせる事件が起こります。UAEのバラカ原子力発電所へのドローン攻撃です。UAE国防省によると「西側の国境方向から」3機のドローンが侵入し、2機は迎撃したものの、3機目が防空網を突破。アブダビの西約175マイルにある原発の内周フェンス外側の発電機で火災が発生しました。同日サウジでもイラク空域から3機のドローンが侵入したと発表されています。

イラン軍報道官は「トランプ大統領の脅しが実行に移されれば、米国は新たで攻撃的かつ予期せぬ事態に直面し、自ら招いた泥沼に陥るだろう」と警告。トランプ政権が再攻撃に傾くなか、イランはUAE原発を破壊し得る能力を見せつけ、「再攻撃には大きなリスクが伴う」というメッセージを送ったわけです。実際イランはUAEとの「『隣国』という呼称は当面取り消され、『敵対的な拠点』というレッテルが貼られた」と公言するに至っています。

6.「攻撃延期」が意味するもの

17日夕方、ネタニヤフ首相とトランプ大統領は電話会談を行い、戦争再燃の可能性を協議。しかし18日、トランプ大統領は「イランへの新たな攻撃を承認していたが、カタール、サウジアラビア、UAEの3カ国首脳が核合意交渉にさらなる時間を求めたため、攻撃を見送った」と発言。19日に予定していた攻撃の中止を軍幹部に指示しました。

ここで改めて注目すべきは、トランプ氏が4月以来「壊滅的な打撃」と威嚇を繰り返しながら、その都度実行を見送ってきたという事実です。これと対照的なのが、イランの行動です。バラカ原発へのドローン攻撃、湾岸全域への同時攻撃、米駆逐艦3隻への直接攻撃──イランは戦争再開時の報復リスクを口先ではなく実際の行動で示し、その威嚇に実効性を持たせています。結果として、交渉の場でも米国は優位に立てていません。

最も憂慮すべきは、この構造のまま時間がズルズルと過ぎていくシナリオでしょう。イランはホルムズ海峡の支配を着々と制度化し、湾岸諸国もイランとの個別取引を始めている。トランプ氏が決断を先送りするほど、イランは態勢を立て直し、戦争前よりも強い立場を築いていくことになります。そして最終的に、イランが態勢を整え、湾岸諸国の信頼も失い、米兵の疲弊も進んだ頃に、トランプ氏が政治的圧力に耐えかねて軍事的エスカレーションに踏み切る──という、戦争初期に比べはるかに不利な条件下での再戦シナリオが現実味を帯びてきます。

トランプ氏の「延期」の繰り返しは、当面の衝突回避という意味では合理的に見えるものの、戦略的には「敗北の条件を整える時間稼ぎ」になっている可能性も排除できません。このパターンを振り切って米国が再攻撃に踏み切るのか、それとも構造的劣化がさらに進んでしまうのか。今後数週間の最大の焦点となりそうです。

 

世界は、まさに100年に一度の大きな変動期を迎えています。歴史や地政学をはじめ、国際政治や安全保障を学ぶことがますます重要な時代になっています。共に学んでいきましょう。

OASIS学校長(President) 菅原 出

 


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