ホルムズ海峡の実効支配に向けるイランの戦略
Mar 26, 2026
こんにちは。オンラインアカデミーOASIS学校長の菅原出です。
前回のコラム「イラン戦争の『泥沼』に引きずり込まれたトランプ」では、イランの計画的なゲリラ戦に直面して、出口を探すことができずに苦しむトランプ政権の状況を解説しました。
今回はその延長線上で、イランがさらに強硬な姿勢をみせてホルムズ海峡の支配を確立し、米軍を中東から追い出そうとし始めた、というお話をしていきます。
1.トランプ大統領の「合意」発言と実態との乖離
3月23日、トランプ大統領は、米国が3週間に及ぶ戦争を終結させるためイランと交渉中であると述べ、双方が2日間にわたり「非常に良好かつ実り多い対話」を行い、今週を通じてこれを継続すると突如表明しました。
「我々は極めて、極めて充実した協議を行った。主要な合意点がある」「協議は、私が言うところの完璧な形で進んだ。もし彼らがそれを実行に移せば、その問題、その紛争は終結するだろう」とトランプ氏は楽観的に述べたのです[i]。
トランプ大統領は、“身元不明”のイラン当局者との「実りある協議」を理由に、イランの発電所を爆撃する、さらに自らが48時間前に発表した最後通告を5日間先送りさせる、と表明しました。
これに関してイラン政府は、米国との交渉を行った事実はないと即座に否定。ある欧州当局者は、両国間の直接交渉は行われていないものの、エジプト、パキスタン、および湾岸諸国がメッセージの伝達役を務めていることを明らかにしていました[ii]。
過去に米・イラン間では何度も交渉が行なわれてきたものの合意に至ることはできず、遂には昨年6月の「12日間戦争」に続いて、今年の2月28日以降3週間以上も激しい全面戦争が展開されてきました。そんな最中に、たとえバックチャンネルで両国が接触していたとしても、トランプ氏が主張するように両国間に「主要な合意点があり、ほぼすべての点で合意に至っている」ことなどあり得ません。同氏の発言が誇張(もしくは捏造)であることは明白でした。
トランプ氏は、「我々が交渉しているのは、非常に理性的で堅実な人々だ。(中略)彼らは非常に尊敬されており、そのうちの誰かがまさに我々が求めている人物になるかもしれない」などと発言していたのですが、そんな人物は現在のイランの超強硬派の政権の中には見当たりません。
実は、トランプ氏がお気に入りのパキスタン軍のムニール参謀総長が、イラン国会議長で革命防衛隊出身のモハンマド・ガリバフ氏に接触し、イランと米国の会談仲介を提案したことから、トランプ氏は「これで戦争を終わりにすることができる」と有頂天になってしまったのではないか、と筆者は思っています。トランプ政権に接近するパキスタンのシャリフ首相も、「米国とイランの合意を条件として、パキスタンは、現在進行中の紛争の包括的な解決に向けた有意義かつ決定的な協議を促進する場を提供するホスト国となる用意があり、光栄に思う」などとSNSに投稿したこともあり、パキスタンの仲介に過剰に期待してしまったのかもしれません[iii]。
2.米国の提示した15項目計画とイランの強硬な反応
米国はパキスタン経由でイランに対し、戦争終結に向けた15項目の計画を提示したとされています。この文書でトランプ政権は、イランに対し主要な3つの核施設を解体し、イラン国内でのウラン濃縮活動を一切中止すること、弾道ミサイル開発を停止すること、ヒズボラなどの代理組織への支援を抑制すること、そしてホルムズ海峡を全面的に再開すること等を求めたようです。
その見返りとして、イランに対する核関連の制裁が解除され、米国はイランの民生用原子力プログラムを監視しつつ支援を行うことになる、と当局者は述べていました。米国はまた、15項目の計画について協議するため、1ヶ月間の停戦を求めたと伝えられています[iv]。
しかし翌日イラン軍は、この戦争を終結させるため、米国が交渉中であるというトランプ大統領の主張を否定し、米国は「自国と交渉している」と嘲笑いました。イラン統合軍司令部の最高報道官エブラヒム・ゾルファガリ氏はイラン国営テレビで「あなた(トランプ氏)の内なる葛藤は、もはや自分自身と交渉する段階にまで達しているのか?」「我々のような人間は、あなたのような人間とは決して折り合うことはできない」「我々のような者は、あなたと取引などしない。今だってそうだし、今後も決してない」と明言したのです。
さらに3月25日に米ウォールストリートジャーナル紙は、革命防衛隊がイラン政権内で権力を掌握しており、ペルシャ湾内のすべての米軍基地の閉鎖や、イランへの攻撃に対する賠償金などの要求を突きつけているとのことでした。またそのほかにも、①ホルムズ海峡に関する新たな取り決め。これにより、エジプトが現在スエズ運河で行っているように、イランが同海峡を通過する船舶から通行料を徴収できるようになること。②戦争が再燃しないことの保証、およびイランと結託するレバノンの民兵組織ヒズボラに対するイスラエルの攻撃の停止、③イランに対するすべての制裁の解除、④イランがミサイル開発計画を継続することを認め、その制限に関する交渉を行わないこと、も要求したのだそうです[v]。
当然、米国はこんな要求を受けることができませんから、交渉再開は極めて困難です。
3.ホルムズ海峡の実効支配に向けるイランの戦略
戦争を今すぐにやめたいのは米国の方であり、イランではありません。イランは長期戦の準備ができており、ホルムズ海峡に対する支配的な立場を利用してこれから世界から同海峡の通航料をまき上げようとしています。長期戦の我慢比べに引き込めば米国に勝てると信じているイランが交渉で譲歩するはずはありません。
3月12日に新最高指導者モジタバ・ハメネイ師が初めてメッセージを発表した時の内容は、「ホルムズ海峡を封鎖し続け、戦い続ける」という点と、「近隣諸国に対し自国領内の米軍基地閉鎖を求める」というものでした。イランの保守強硬派政権の政策の柱は、今や「ホルムズ海峡の支配を確立すること」と、「湾岸地域から米軍を追い出すこと」なのです。
そんなイランがトランプ政権と「ほぼすべての点で合意」などできるはずはありません。なんとしても戦争を終結させたいトランプ氏が、藁にもすがりたい思いでパキスタンの支援に過剰な期待をしてしまった状況が目に浮かびます。
3月19日にイランは、特定の船舶のホルムズ海峡通過を許可する計画の策定を開始、イラン議会が通航料徴収法案を検討していることが報じられました。こうした制度が確立されてしまえば、湾岸地域のエネルギーへのアクセスを求める国々は、直接的であれ間接的であれ、イランの要求を受け入れざるを得なくなります。これは、世界の石油および液化天然ガスの5分の1が通過するこの重要な水路に対するイランの新たな支配力を、金銭的に活用しようとする試みです[vi]。
さらに3月24日、イランは国連の海事機関に対し、「非敵対的」な船舶であれば、ホルムズ海峡を安全に通過できると伝えました。同日、国際海事機関(IMO)の加盟国に回覧された書簡の中でイラン外務省は、「イランに対する侵略行為に参加も支援もせず」、かつ米国やイスラエルに属さない船舶を「非敵対的」な船舶と定義しているとのこと[vii]。
イランはホルムズ海峡の支配を確立し、同海峡を通る船舶から通航料を徴収する制度を世界に認めさせようとしています。こんなに強気になってしまい、復讐に燃えるイランをどうやって止めることができるのでしょうか?
3月24日付米ワシントン・ポスト紙によれば、米国防総省は、イランに対する作戦を支援するため、陸軍の精鋭部隊である第82空挺師団のうちノースカロライナ州フォートブラッグ基地に駐屯する約2,000人の兵士で構成される部隊の中東への派遣を正式に命じました。
今回派遣を命じられた兵士の多くは、同師団の「即時対応部隊)」に所属。この部隊は、18時間以内の通告で展開できるよう訓練されており、飛行場やその他の重要インフラの制圧、米国大使館の増援、緊急避難の支援など、多岐にわたる任務を遂行することができるとされています[viii]。
第82空挺師団の即応部隊の中東派遣は、トランプ大統領がもし望めば、武力によってホルムズ海峡の封鎖を解除しようとしたり、イランの戦略的な島嶼や同海峡沿岸部を占領したり、あるいはイランの政権が保有する高濃縮ウランを奪取する作戦を開始する選択肢を提供することになるでしょう[ix]。
ホワイトハウスの当局者によると、トランプ大統領は24日、へグセス国防長官に対し、イランへの軍事的圧力を維持するよう指示。沖縄を出発した米海兵隊の遠征部隊1個部隊が今週にも中東に到着し、もう1個部隊もまもなく移動を開始する予定だと伝えられています。ホワイトハウスの当局者は、地上作戦も選択肢の一つであると述べていますが、トランプ大統領はまだ決定を下していないことを強調しました[x]。
4.今後の見通しとリスク:戦後中東の安定は訪れるか
今後ホワイトハウスはイランとの交渉再開を試みると思われますが、イランの交渉条件は高く、協議は難航することが予想されます。米国がイランの要求をすべて飲むほど譲歩してしまえば別ですが、そうでない限り交渉は難航。トランプ大統領がイランへの圧力強めるため、現在中東に派遣中の海兵隊や空挺部隊を投入した地上作戦(カーグ島制圧もしくはホルムズ海峡沿岸部や他の島の占拠)などに動き、イランの大規模報復を招き、さらにエスカレーションが起きるリスクがあると言わざるを得ません。
米軍が今も中東への軍備増強を進め、追加の軍事予算を申請していることから、もう一段階のエスカレーションのリスクへの備えが必要でしょう。
もし米国がホルムズ海峡の支配を奪還しないまま作戦を終了してしまった場合、イランが同海峡を支配(通航税徴収)、これまで以上に強硬で、しかも今回の戦争を生き延びて自信を深め、より狂暴な体制が残されることになります。軍事的には弱体化しても「テロ」で世界経済を人質にできることを知った過激な体制が、中東の戦略的要衝を支配し、湾岸アラブ諸国を脅し続けるだけでなく、莫大な通行税収入を背景に将来の核武装を進めるリスクも残されます。
この戦争は、戦争前よりも狂暴な政権をイランにつくり、その政権が将来にわたり経済的に強くなる仕組みをつくるだけの結果で終わってしまう可能性も出てきました。
トランプ政権は早く戦争をやめたいようですので、地上戦を仕掛けて圧力をかけてもイランが屈しないとわかれば、最終的には中途半端な形で撤退する可能性も十分にあるでしょう。
そうなれば、戦後の中東は、それ以前と比べて安定したものではなくなっている可能性があります。今後の日本企業の中東ビジネスのあり方にも大きなインパクトを与えることになりそうです。
3月15日に開催された緊急オンラインセミナー「イラン戦争とエネルギー危機――中東激変が世界を揺るがす」の録画動画が公開されました。エネルギー問題の第一線で活躍されるポスト石油戦略研究所代表の大場紀章氏をお招きし、イラン戦争が世界や日本のエネルギー情勢に与える深刻な影響などについて議論しました。ぜひご視聴ください。
世界は、まさに100年に一度の大きな変動期を迎えています。歴史や地政学をはじめ、国際政治や安全保障を学ぶことがますます重要な時代になっています。共に学んでいきましょう。
OASIS学校長(President) 菅原 出
[i] The Washington Post, “Trump says U.S. is postponing some strikes as it negotiates end to war with Iran”, March 23, 2026
[ii] Reuters, “Iran denies talks with US after Trump postpones strikes on power grid”, March 23, 2026
[iii] The New York Times, “United States Said to Have Sent Iran a Plan to End the Middle East War”, March 24, 2026
[iv] The Wall Street Journal, “Mediators Aim for U.S.-Iran Meeting by Thursday”, March 24, 2026
[v] The Wall Street Journal, “Iran Plays Hardball as Mediators Push for Talks With U.S.”, March 25, 2026
[vi] Reuters, “Iran considers levying transit fees on ships in Hormuz Strait, lawmaker says”, March 19, 2026
[vii] The New York Times, “Iran says ships with no ties to Israel or U.S. can sail through the Strait of Hormuz.”, March 24, 2026
[viii] The Washington Post, “Army paratroopers ordered to Middle East as U.S. weighs next move in Iran conflict”, March 24, 2026
[ix] The Wall Street Journal, “Mediators Aim for U.S.-Iran Meeting by Thursday”, March 24, 2026
[x] Axios, “Iran suspects Trump's peace talk push is another trick”, March 24, 2026