イランの「賭け」――封鎖を破られたイラン、フーシ派を使って反撃に出る
Sep 16, 2026
こんにちは。オンラインアカデミーOASIS学校長の菅原出です。
2026年8月末から9月にかけて、米・イラン戦争は新しい局面に入りました。1カ月続いた小康状態が破れ、米軍とイランの応酬は空母やタンカーを巻き込む規模にまで拡大しています。しかも今回の主戦場は、ホルムズ海峡だけではありません。イランはイエメンのフーシ派を動かし、紅海沿岸からサウジアラビアの石油施設にまで手を伸ばしました。今回のコラムでは、この一連の動きを整理し、なぜイランがここまでリスクを取ってきたのかを考えてみたいと思います。
目次
1.タンカーを狙い合う「タンカー対タンカー」戦
2026年8月30日、米軍がホルムズ海峡でイランの機雷発射装置を攻撃したことをきっかけに、約1カ月続いていた小康状態が破れました。9月1日には、米軍がイラン沿岸の革命防衛隊(IRGC)関連目標約100カ所に大規模空爆を実施し、防空施設、レーダー、通信施設、機雷敷設能力などを叩きました。米軍はまた、初めてイラン国営石油会社所有のタンカー2隻を攻撃し、「イランがホルムズ海峡で商船を攻撃するたびに、米軍がイランのタンカー1隻を叩く」という「タンカー対タンカー」の新方針を発動しました。
これは、従来の「輸出を止める」封鎖から、イランが制裁下で積み上げてきた「影の船団」という数少ない資産そのものを「壊す」段階への移行を意味し、経済戦争の性格が「遮断」から「資産破壊」へと変質しつつあることを示しました。
これに対しイランは9月2日、ミサイル・無人機少なくとも59発をヨルダン、バーレーン、クウェート、イラクに向けて発射、4月8日の停戦以降で最大規模の反撃を実施しました。イランの狙いは、地域諸国への攻撃でエネルギー価格を押し上げることにあると考えられました。
さらにイランは9月5日、米空母と誘導ミサイル駆逐艦に弾道ミサイルを発射したと発表。米当局者は「重大なエスカレーション」と受け止め、報復にイランの原油輸送船3隻を攻撃し、うち2隻を「恒久的に航行不能」に、1隻を「完全に破壊」しました。
こうした応酬の背後で、米軍はホルムズ海峡のオマーン沿岸の航路、いわゆる「南部航路」を使い「護送船団方式」で商船の航行を支援し、イランの妨害を阻止しながらこの戦争開始前の4割超もの原油を輸出させることに成功していたことが明らかにされました。
他方でイランは、7月14日の米国による港湾封鎖再開以降、中国向けの海上輸出が事実上ゼロとなっており、9月2日にはイラン・リアルが史上最安値(1ドル=220万リアル)を記録しました。つまり、米軍によるイラン海上封鎖は機能しているのに対し、イランによるホルムズ海峡封鎖はその実効性が低下し、米軍支援のタンカーの通航が回復しつつあったのです。
2.イランが商船を撃てなくなっている理由
ホルムズ海峡を通る船の量が米軍の支援のおかげで回復しているのに、イランによる商船攻撃自体は増えておらず、専門家は、これを「やらないのではなく、できない」からだと分析しています。
原因は米軍によるイラン軍のレーダー施設への攻撃だと考えられています。イランが商船を攻撃する作戦には、動く船舶を「発見」し、「捕捉」し、「撃破」するという一連の循環が必要ですが、そのうちの、移動する商船を追尾し着弾座標を算出する「捕捉」が、米軍による沿岸レーダーの重点的破壊によって断たれつつあるようなのです。ただし米当局者はこの制約を「少なくとも1カ月間」としており、イランが資金を調達できれば短期間で能力を再建する可能性が残されています。
3.我慢比べに疲れ始めた米軍
もっとも米国側も能力的には限界に近づいています。米ウォールストリート・ジャーナルによれば、ヘグセス米国防長官は中東への米軍展開を2027年まで延長する決定を下し、5万人の兵員、空母2隻を含む19隻の艦艇を中東地域で維持する方針です。
ワシントン・ポスト紙は、この駐留延長決定に対し軍の制服組から異例の反発があったことを報じています。8月14日付の「国防長官命令書」に対し、米欧州軍・太平洋軍・南方軍の各司令官と海軍作戦部長が「不同意(non-concur)」を記録したというのです。太平洋軍のパパロ司令官は空母打撃群の継続的供出に異を唱え、コードル海軍作戦部長は駆逐艦の即応可能な艦が戦前から大きく落ち込み、全体の4分の1にとどまると警告を発しています。
つまりこの戦争は、イランも米国も「これ以上は苦しい」という状態に近づきつつある我慢比べになっているのです。
4.フーシ派を使ったサウジへの「飛び火」
そこでイランが取った手が、イエメンのフーシ派を使った揺さぶりです。イランが支援するイエメンの武装勢力フーシ派は9月8日、サウジ南部4都市(ハミス・ムシャイト、アブハ、ナジュラン、ジャザン)を開戦以来最大規模のドローン・ミサイル攻撃で襲い、73人が負傷、石油関連施設が炎上しました。サウジ主導連合軍はイエメン国内で54回の空爆を実施し、双方の応酬は2014年以来続くイエメン内戦の本格再燃を懸念させる事態となりました。さらに9月10日以降、フーシ派はイエメン紅海沿岸・島嶼部への支配を急拡大させ、大ハニシュ島・小ハニシュ島、モカ港、ドゥバブ、そしてバブ・アル・マンデブ海峡中央のペリム島を制圧、紅海の出入り口にあたる同海峡の要衝まで押さえてしまいました。
こうしたなか9月10日、イラクから発射されたドローンがサウジ・メディナ県の東西パイプラインとポンプ場を攻撃し、サウジは予防措置としてパイプラインの稼働を停止。フーシ派はIRGCとの調整の下、イラクのシーア派民兵の支配地域で軍事拠点を構築しており、今回の攻撃はイランの支援を受けたフーシ派によるものである可能性が高いとされています。
サウジの原油生産量は8月に30年以上ぶりの最低水準に落ち込んでおりましたが、パイプライン攻撃を受けて原油価格は7月以来初めて100ドルを突破、米国内のディーゼル小売価格も過去最高値を更新しました。
サウジアラビアのムハンマド皇太子(MBS)は、トランプ大統領に軍事支援を求めましたが、トランプ氏はフーシ派への空爆には同意しなかったと報じられました。追い詰められたサウジが、イランとの妥協に動く可能性も出てきています。
5.イランの狙いは「トランプを交渉に引き戻すこと」
米国は、軍事的な緊張を高めることなく、静かにイランを経済的に封じ込める作戦をとろうとしていたのですが、イランは逆に軍事的な緊張を高め、挑発するだけでなく、実際に原油価格を高騰させることで、トランプ大統領が対応せざるを得なくなる状況を作ろうとしています。戦闘を激化させれば経済状況が悪化し、また、米軍の資源もさらに少なくなることに対する懸念が強まります。そんな中でトランプ大統領が全面戦争オプションを選択する可能性は低く、仕方なく交渉に戻らざるを得なくなる、とイランは見込んでいるのでしょう。イランは、「全面戦争」か「交渉」かというところまでトランプ氏を追い込むために、全面戦争すれすれまで緊張を高める危険な賭けに出ていると言えます。
このフェーズにおけるイランのエスカレーションのターゲットは明らかにサウジアラビアになっています。主にイエメンのフーシ派やイラクのシーア派民兵を支援する形で、サウジのエネルギー施設(東西パイプライン)を攻撃し、また、フーシ派によるバブ・アル・マンデブ海峡封鎖能力を強化するという二つの作戦を進めているのです。
イランは、サウジの石油関連施設や紅海・バブ・アル・マンデブ海峡への支配を強化することで世界経済を混乱させ、再びこの戦争における主導権を取り返しています。この状況を受けて、今後トランプ政権がどのような対応をとるのかが注目されます。トランプ氏を「交渉での譲歩」に追い込むまで、イランは危険なエスカレーションを続ける賭けに出ていると考えるべきです。
中東では今後も緊張が高まることが予想されます。
世界は、まさに100年に一度の大きな変動期を迎えています。歴史や地政学をはじめ、国際政治や安全保障を学ぶことがますます重要な時代になっています。共に学んでいきましょう。
OASIS学校長(President) 菅原 出