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戦場ルポの最高傑作『戦場で笑う』(横田徹著)を読んで

学校長 横田徹 飛耳長目 Jul 25, 2025
連載コラム|菅原出飛耳長目

こんにちは。オンラインアカデミーOASIS学校長の菅原出です。

 

今回は、2025年7月に朝日新聞出版から刊行された横田徹さんの新著『戦場で笑う』を紹介します。

著者の横田徹さんは、世界各地の紛争地を取材してきたベテラン報道カメラマンで、アフガニスタン戦争では米軍に従軍し、「最も危険だ」と言われた同国東部の激戦地を何度も取材され、シリアでは過激派イスラム国(IS)の首都と言われたラッカに乗り込み、ジハード主義者の聖地をカメラに収めた“戦場ジャーナリスト界のレジェンド”です。

そんな横田さんが、2022年~2025年まで7回にわたってロシア・ウクライナ戦争を取材された貴重な記録を一冊にまとめられたのが、本書『戦場で笑う』です。

 

コロナ禍で一度は戦場取材から「足を洗う」ことまで考えた横田さんが、過去25年間数々の戦地を渡り歩き、激戦地を取材してこられた経験とスキル、そして胆力を総動員して挑まれたウクライナ戦争の最前線取材。「真相報道!バンキシャ!」などで放映されたド迫力の映像を撮るまでの舞台裏が克明に記されています。

大手メディアでは決して辿り着けない戦場の最前線に横田さんが立つまでに、様々な人たちとの出会いがあり、いろんな人たちの想いや期待、時に企みも相俟って、横田さんにまたとない機会の扉が開かれていく。現地人フィクサーとの「珍道中」は笑いを誘います。

最前線で横田さんは、複雑な事情を抱えながらも、戦争の現実と正面から向き合い、苦しいからこそ「笑う」ことで正気を保ちながら、必死に生きる人たちの物語を綴っています。戦争が生み出す醜さや人々の悲しみを全身で表現するダンサー、激戦地で救急搬送や医療支援に従事するティーンエイジャーの医療ボランティア、主婦をやめて軍に入隊した女性広報官など、戦争という日常の中で、決して諦めることなく前向きに生きる人たちの姿は感動的であり、戦争の残酷さを際立たせます。

横田さんは、最前線に行くにあたり、死を覚悟しながらも、自分のやるべきことをやりたい、その好奇心と高揚感が恐怖心を打ち消して、「穏やかな気持ちでいられた」と書いています。おそらくこの感覚は、死と隣り合わせで生きる現地の人たちと同じなのだと思います。この感覚を共有できたからこそ、横田さんは、最前線で生きる人たちのたくさんの「笑顔」を引きだすことが出来たのだと思います。

本書を手に取ってみてさらに感動するのは、洗練された装丁やデザインの素晴らしさです。カラー写真も多数収録されており、紙質を含め本の細部にわたって、編集者やデザイナーのこだわりや熱量が感じられます。本書の制作に携わったたくさんの人たちの、「いい作品をつくりたい」という想いが詰まっていて、本書を手にするだけで幸せな気持ちになります。本の売れない時代に、こんなに丁寧な本づくりをした朝日新聞出版に心から敬意を表したいと思います。

突き詰めていくと、横田さんの人間力が、関係するすべての人たちの熱意を引きだし、素敵な一冊が出来上がったのだと確信しています。

笑いあり、涙ありの異色のノンフィクション『戦場で笑う』は、間違いなく日本人が書いた戦場ルポの最高傑作です。たくさんの方にお読みいただきたいと思います。

 

世界は、まさに100年に一度の大きな変動期を迎えています。歴史や地政学をはじめ、国際政治や安全保障を学ぶことがますます重要な時代になっています。共に学んでいきましょう。

菅原 出
OASIS学校長(President) 


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