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高まるイスラエル・ヒズボラ「戦争」の可能性

イスラエル ヒズボラ 学校長 飛耳長目 Jun 21, 2024
連載コラム|菅原出飛耳長目

こんにちは! オンラインアカデミーOASIS学校長の菅原出です。

1.「最高幹部」殺害され攻撃の手を強めるヒズボラ

5月31日にバイデン大統領がガザ戦争終結に向けた三段階の「停戦案」を発表し、戦争を終わらせる「最後のチャンスだ」として、イスラエルとハマスに受け入れを迫りました。しかし、いまのところ両陣営共に停戦案に合意することができず、足踏み状態が続いています。

そして、そうこうする間にも、イスラエル北部のレバノンとの国境周辺で、イスラエル軍と武装組織ヒズボラとの緊張が高まっています。ヒズボラはイランが支援するグループで、単なる武装民兵組織ではなく、レバノンでは政党も持ち国政に大きな影響力を持つ政治的アクターでもあります。

この辺は日本人には理解しにくいのですが、ヒズボラは民兵組織といっても、レバノン国軍をはるかに凌ぐ強力な軍事力を持っており、レバノン軍とは全く無関係に隣国イスラエルと武力衝突を起こしています。

そして、ヒズボラとイスラエル軍の小競り合いが、最近、危険なレベルにまでエスカレートしています。

6月12日、ヒズボラは、イスラエル北部に向けて約215発のロケット弾と数発のミサイルと無人機を発射。イスラエル北部の複数の町や軍の拠点、さらに兵器製造工場などを直撃して損害を与えました。昨年10月にガザ戦争が勃発し、イスラエル軍との小規模な軍事衝突が始まって以来、ヒズボラが行った最大の攻撃です。

また翌13日にヒズボラは、イスラエル北部の軍司令部、情報本部、軍の兵舎に100発以上のロケット弾や30機以上の自爆型無人機を一斉に発射し、2日間連続の大規模攻撃を仕掛けたのです。

このようにヒズボラが攻撃を激化させたのは、6月11日にヒズボラの上級指揮官の一人であるタレブ・アブダラ氏がイスラエル軍の攻撃で殺害されたからだとされています。アブダラ氏は、ガザ戦争勃発後の戦闘の中で、イスラエル軍が殺害したヒズボラメンバーの中で「最高幹部」だったとされています。

ヒズボラの指導部は、アブダラ氏を殺害されたことを受けて、イスラエルに対する報復を宣言していました。

6月18日にヒズボラは、イスラエルのハイファ港にある重要な軍事基地を無人機で撮影した映像を公開。この映像は、イスラエル軍に探知されずにレバノンに戻った無人機で撮影されたものだ、とヒズボラは自らの能力を誇示した発表を行い、ハイファの市民に衝撃を与えました。

2.対ヒズボラ「軍事作戦」を承認したイスラエル

こうした攻撃を受けて、イスラエルの政治家たちはヒズボラに対する怒りを爆発させています。極右の国家安全保障相ベングヴィール氏は、「ヒズボラの拠点をすべて焼き払い、破壊する必要がある。戦争だ!」と発言。ネタニヤフ首相は、「北部の治安を回復する」ために「我々は非常に激しい行動に備えている」と述べていました。

ヒズボラがビデオを公開した直後にイスラエル軍は、ヒズボラに対する軍事作戦計画を承認したと発表。イスラエル軍は、18日に終日戦闘機をレバノンに飛ばして、無人機を運営しているとされるヒズボラの空軍部隊を攻撃したことを明らかにしました。

19日にはヒズボラの最高指導者ナスララ師がテレビ演説を行い、イスラエルとの間で広範な戦争が起こった場合、イスラエルに「我々のミサイルと無人機から安全な場所はない」と警告しています。

ナスララ師は、イスラエルに殺害されたアブダラ氏の葬儀でも、イスラエルと大規模な戦争になった場合、ヒズボラは「ルールなし」、「制限なし」で全面的に戦うと宣言していました。

イスラエルのガラント国防相も19日に、「我々はあらゆるシナリオに備えている」と表明、18日にはカッツ外相が、「全面戦争となればヒズボラは壊滅し、レバノンも大きな打撃を受けるだろう」と投稿するなど、舌戦がエスカレートしています。

3.高まる新たな戦争の可能性

イスラエルは、ガザにおけるハマスとの戦争を収束の方向に進めていますが、次なる北の脅威ヒズボラとの戦争にシフトさせてきた可能性があります。イスラエルは、これだけ直接的な脅威を与えてくるヒズボラを、少なくとも国境から遠ざけて、レバノン側に緩衝地帯を作らなければ、国境沿いから退避させているイスラエル市民を帰還させることはできません。

ヒズボラの部隊を物理的にイスラエルとの国境から遠ざけ、またヒズボラの軍事能力を低下させる目的で、イスラエルが大規模な攻撃を仕掛ける可能性は十分にある、と筆者は考えています。当面、最大限の注意が必要です。イスラエルの戦争はまだまだ終わりそうにありません。

 


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菅原 出
OASIS学校長(President)