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イランによるイスラエル攻撃と今後の中東秩序

イスラエル イラン 学校長 飛耳長目 Apr 16, 2024
連載コラム|菅原出飛耳長目

こんにちは!オンラインアカデミーOASIS学校長の菅原出です。

1.史上初の直接攻撃

前号の「飛耳長目」で、緊張高まるイラン・イスラエル関係について書いた数日後に、悪夢のような事態が現実になりました。

4月13日にイランは、イスラエルに対し、数百機の無人機とミサイルを発射したのです。イランが自国領内から直接イスラエルを攻撃したのは、歴史上初めてのことでした。

イランによる攻撃の第一報を耳にして不可解だったのが、「イランが下手に報復攻撃を行ってしまえば、イランが望まないイスラエルとの全面戦争へと引きずり込まれ、米国とイランの戦争にまで発展してしまうおそれがある。イランのハメネイ最高指導者はそれを警戒していたはずではなかったのか」という点でした。

この攻撃は5時間近く続きましたが、私はその間CNNとアルジャジーラを交互に観ながら、ネットで飛び交う最新情報を追いながら事態の推移を見守り、イランの思惑を探りました。

イランが発射した無人機185機と巡航ミサイル36発は、いずれもイスラエル領内に到達する前に迎撃され、弾道ミサイル110発のうちの一部がイスラエル南部のネバティム空軍基地に着弾し、イスラエル南部の7歳のベドウィンの少女が重傷を負ったことが報じられました。

イランは合計350以上の無人機、弾道ミサイル、巡航ミサイルを発射しましたが、イスラエル軍に加えて米、英、仏軍や周辺のアラブ諸国の防空システムも総動員されたことで、結果的にはイランの攻撃の99%が迎撃されるという驚異的な結果でした。

2.イスラエルに能力と意図を示したイラン

時間の経過と共に徐々に背景が明らかになっていきました。

今回の攻撃について、14日の朝に、イラン軍参謀総長のモハマド・ホセイン・バケリ少将は、シリアのイラン大使館領事部に対するイスラエル軍の空爆に報復する作戦だったこと認めたうえで、「イランが今回の作戦の数十倍のミサイルや無人機による攻撃を行う能力を持っているが、大規模な攻撃は控え、懲罰的な作戦にとどめた」と述べ、イランが抑制的な対応をしたことを強調しました。

350の無人機やミサイルを撃つことが「抑制的」だったとは思えませんが、一応イスラエル南部の軍事施設を中心に狙い、大規模な死傷者を出すことを狙った攻撃ではなかったとイランは主張しています。

しかし、より重要なのは、イランが事前に米国を始め近隣諸国に攻撃について事前通告をしていたことです。

イランのアブドラヒアン外相は、米国に対して「イスラエルへの攻撃は自衛のための限定的なものである」と事前に通知していました。米国とイランはこれまでも衝突を避けるためにスイスやオマーン政府を通じてコミュニケーションをとっており、今回も事前に発射時間や無人機やミサイルの数についての詳細まで伝えられていたとされています。

さらにイランは、近隣諸国にも攻撃の72時間前に計画を通知していたことを明らかにしており、少なくともトルコ、エジプト、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)が事前通告を受けていたことが明らかになっています。

イランは、イスラエルに報復をする必要があったのですが、イスラエルとの全面戦争は避けたいというジレンマを抱えていました。そこで、攻撃の手法を米国やイスラエルに明確に示しながら行うことで、彼らに十分に防衛の準備をさせたうえで、「抑制的な」攻撃をしたものと考えられます。

今後、さらなる攻撃をイスラエルがしてきた場合は、今度はエルサレムやテルアビブに一斉攻撃を仕掛ける、それが嫌ならこれで終わりにしろ、とイランは主張したいのです。イランは、今回の攻撃により、イスラエルを直接攻撃する「能力」と「意志」があることを示し、「報復しなければこれ以上の攻撃はしない」と明示することで、さらなるイスラエルによる攻撃の抑止を狙ったのだと思われます。

3.戦略的判断か報復か

それにしても、リスキーな攻撃であることは間違いありません。イスラエルが今回の攻撃をほぼ100%迎撃できたのは、同国の防空システムがすごいだけではありません。事前に準備の時間があったことで、米軍を始め、英軍、仏軍などが防衛のための配備について準備が出来ました。

そして、それよりも効果的だったのは、サウジアラビアやUAEが情報共有に同意し、ヨルダンも、米国や他国の戦闘機による領空の使用を許可し、イランのミサイルや無人機の迎撃を支援するために自国の航空機を使用することに応じたことでした。

米軍は、トランプ政権の頃から、「中東版NATO」などと言って、アラブ諸国のミサイル防衛システムを統合させ、イスラエルの防衛システムともリンクさせて、イランの脅威に対抗する「防空同盟」の構築を目指していました。

実は今回のイランによる攻撃を前にして、バイデン政権はこのアラブ諸国と米軍とイスラエル軍の防衛システムをリンクさせ、初めて「防空同盟」を機能させることに成功したのです。この辺の事情は、米ウォールストリート・ジャーナル紙のベテラン記者マイケル・ゴードン氏が4月15日に「How the U.S. Forged a Fragile Middle Eastern Alliance to Repel Iran’s Israel Attack」という記事の中で詳述しています。

ですからバイデン政権は、「イランの攻撃に対する防衛に成功したことはイスラエルにとって大勝利だ、もはや報復は必要ない」としてイスラエルに自制を促しています。バイデン大統領はネタニヤフ首相に対し、米国はイランの攻撃からイスラエルを「防衛」することには全面的に協力するが、イランへの「攻撃」には参加しないと警告。この警告を受けて、ネタニヤフ政権は「すぐにイランを報復する計画」は、とりあえず諦めたことが報じられています。

防衛に協力したサウジなどのアラブ諸国も、イスラエルに対してイランへの報復攻撃をしないよう自制を促していると伝えられています。カタールやクウェートは米軍に対して、イランを攻撃するのであれば自国の基地や空域を使用させない、との通達を米政府に出したことも報じられました。

では、イスラエルはこれからどのような対応をするのでしょうか?

イスラエル政府の中には、バイデン政権の言う通り、イランへの報復をせず、折角できたアラブ諸国との「防衛同盟」を固定化させ、イランの脅威に備えるチャンスだと考えている人たちもいます。ガザ戦争が始まって以来、パレスチナ人を虐めているとして国際的に非難されてきたイスラエルが、イランという大きな脅威を前に、米国だけでなく周辺アラブ諸国とも協力できる機会が生まれているのです。

しかし、イスラエル本土が攻撃されたまま何もしないでいれば、“イランに抑止された形”になってしまうことを懸念する人たちもいます。ネタニヤフ首相などは、イスラエルの本土に数百発のミサイルや無人機による攻撃をしておきながら、イランに何の罰も与えずに済ますことなど考えられない、と思っているでしょう。

イランを封じ込めるために米国やアラブ諸国との連携を強化する戦略的な道を選ぶのか、イランを罰するために報復攻撃をするのか、イスラエルが次に下す判断は、今後の中東の秩序に大きな影響を与えることになりそうです。そして、言うまでもありませんが、イスラエルが報復攻撃を行った場合、さらなるイランの報復を招き、紛争のエスカレーションを止めるのは難しくなるでしょう。


世界は今、100年に一度の大きな変動期を迎えています。今こそ歴史や地政学をはじめ、国際政治や安全保障を基本から学ぶことが必要になっています。

今後とも一緒に学んでいきましょう!

菅原 出
OASIS学校長(President)


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