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ガザ戦争「再開」で高まる緊張

イスラエル ハマス 学校長 飛耳長目 Dec 11, 2023
連載コラム|菅原出飛耳長目

こんにちは!オンラインアカデミーOASIS学校長の菅原出です。

ガザでの戦闘再開で被害拡大

イスラエルとハマスの戦闘休止は、わずか一週間で終了し、12月1日に戦闘が再開され、これまで以上に激しい戦闘が展開されています。

イスラエル軍は当面の作戦の目標を、ハマス軍事部門の指導者ヤヒヤ・シンワールやモハメド・デイフの殺害だとしています。また、3万発とも言われるハマスが保有するロケット弾を回収・破壊するだけでなく、ロケットの製造工場を見つけて、材料の流入ルートを遮断することも、重要な軍事目標に設定しているようです。

一方、イスラエル軍がハマスの本拠地にあたるガザ南部に侵攻してきたことを受けて、ハマスの反撃も激しさを増しています。米戦争研究所(ISW)の報告によると、ハマスと他のパレスチナ民兵は、12月1日以降、成形炸薬弾(EFP)を頻繁に使用しているとのことです。EFPというのは、戦車などの装甲を突き破って車両内部の兵士を殺傷する破壊力を持つ非常に危険な砲弾のことで、2003年イラク戦争の時に、当時イラクのシーア派民兵組織が使用して米軍を苦しめていました。

これまでハマスは、イスラエル軍との直接的な戦闘を回避してきましたが、ここに来て激しい反撃を行うようになっており、近接戦闘が行われている状況も数多く報告されています。おそらくハマスがこれまで準備し、様々な反撃計画を立てている地域にイスラエル軍が入ってきたのでしょう。今後戦闘はさらに熾烈さを増すことになりそうです。

史上もっとも激しい通常兵器による空爆

英フィナンシャル・タイムズ紙は、今回のイスラエル軍によるガザ攻撃における空爆作戦が、これまでの戦争の歴史上、かつてない記録的な激しさであることを、専門家の分析を通じて伝えています。

米国の戦史研究家のロバート・ペイプ氏は、都市部の被害推定を比較すると、イスラエル軍が7週間足らずの間にガザ北部を破壊した規模は、第二次世界大戦中にドレスデン、ハンブルク、ケルンといったドイツの都市が何年にもわたって絨毯爆撃を受けたときに近い、と述べています。

またCUNY大学院センターのコリー・シャーとオレゴン州立大学のジャモン・ヴァン・デン・ホークによる衛星レーダーデータの分析によれば、12月4日までに、ガザ北部の建物の60%以上が深刻な被害を受け、いくつかの地区では70%にも上る。ガザ全体では、82,600から105,300棟の建物が廃墟と化したとのことです。

この凄まじい破壊規模の理由の一つは、イスラエルが使用する兵器にあるようです。イスラエル軍が使用している弾薬の中には、精密誘導式の250ポンドの小口径爆弾があり、比較的小型であるために巻き添え被害の確率を減らすことができるものも含まれています。

しかし、イスラエルの戦闘機は、朝鮮戦争やベトナム戦争で米軍が最初に使用したような誘導力のない爆弾を大量に投下していますし、さらに驚きなのは、2,000ポンド(約910キロ)という巨大な精密誘導弾「統合直接攻撃弾(JDAM)」の「GBU-31」を使用していることです。

数年前にイラクの都市モスルでのイスラム国(IS)との戦争で米軍が使用した最大の兵器が500ポンド爆弾でした。それと比べるとその4倍も破壊力のある巨大な爆弾を、イスラエルはガザの人口の密集した市街地に投下していることになります。

JDAMの威力は絶大で、爆風を生き延びた人たちは「液体の地球をサーフィンしている」と証言しています。ビルは支柱ごと崩壊し、セメント、金属、人々の携帯電話、その他あらゆるものの二次的な破片が爆風により超音速で飛び散るのですから、地上にいる人々が生き延びるのは非常に困難でしょう。

さらに今回の攻撃による破壊のレベルが高い理由として、イスラエルの空爆作戦のスピードがとんでもなく早い点があげられます。イスラエルは明らかに、民間人の巻き添え犠牲者を防ぐために設けられていた通常の審査プロセスを今回の戦争では適用していません。

過去の紛争においては、イスラエルには、空爆実施に際して、まず国防省の弁護士によって承認される審査プロセスが存在したと言われています。このプロセスでは、国防省の弁護士が合法的でないと判断した場合、司令官は作戦を進めることはできない仕組みになっていました。

ところが、今回は10月7日の作戦開始からわずか2週間で、イスラエルは毎日少なくとも1,000発の空対地弾を使用したとされています。一日1,000発です!イラクのモスルで米軍の空爆作戦が最も激しかった時期でさえ、「1週間におよそ600発」の爆弾が投下されていたことと比較すると、凄まじいハイペースで空爆が行われていることがお分かりいただけるでしょう。

イスラエル軍はいわゆる「キルチェーン」を短縮し、リアルタイムのインテリジェンスが標的を特定し、空爆で攻撃するまで10分もかからない猛烈なスピードで作戦を進めており、民間人の犠牲を最小限にするようなプロセスはまったく無くなっていると考えるべきでしょう。

イスラエル軍の攻撃は、過去のハマスに対するそれとは全くレベルが異なる凄まじいものになっているのです。近隣のアラブ諸国がとにかく停戦を訴えてイスラエルを非難しているのはこのためだと思われます。近隣諸国には多数のパレスチナ人が住んでいますから、ガザにおけるただならぬ状況がよりリアルに伝わっているのです。

いずれにしても、ガザ戦争は、通常兵器による空爆作戦としては、史上最も激しいものとして歴史に残る可能性があるでしょう。

米国に依存するイスラエル軍の武器弾薬

ネタニヤフ首相は、イスラエルがハマス殲滅のために最も必要なものとして、米国製爆弾の安定供給だと断言しているそうです。

12月1日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙によれば、米政府はイスラエルを支援するため、大量の武器や砲弾に加え、大型の地下貫通弾(バンカーバスター)も供与しているようです。

10月7日のハマスによるイスラエルの攻撃以降、米政府は爆弾約1万5000発、155ミリ砲弾約5万7000発をはじめ、大量の武器の供与を続けていますが、米政府はウクライナへの支援とは異なり、イスラエルに提供した武器の総数や種類を公表していません。

同紙が入手した政府内部の兵器リストによると、米国はこれまでイスラエルに無誘導爆弾「Mk82」5000発超、重量2000ポンドの無誘導爆弾「Mk84」5400発余り、小直径爆弾「GBU-39」約1000発、無誘導爆弾に装着して精密誘導を可能にする誘導システム「JDAM」約3000発などを提供しています。

イスラエルのメディアが入手した録音によると、ネタニヤフ首相は地元政府関係者のグループとの会合で、「我々が米国から必要としているものは3つ:弾薬、弾薬そして弾薬だ」と述べたそうです。

そして、欧米諸国で大規模な反イスラエル・デモが起きていることに言及し、海外からの政治的圧力が米国の武器輸出を脅かすことが、イスラエルにとって最大の懸念だと述べたうえで、「我々は対抗圧力をかける必要がある。 最高の友人たち(米国人)とも意見の相違があるからだ」として、イスラエルへの弾薬供給を継続させるために米国に「対抗圧力」をかける必要性を訴えたのだそうです。

12月8日、国連安全保障理事会は、ガザでの人道目的の即時停戦を求める決議案を採決しましたが、常任理事国である米国が拒否権を行使して否決となったことが大きく報じられました。理事国15カ国のうち、日本を含む13カ国は賛成に回りましたが、英国が棄権、反対は米国のみでした。

また、バイデン政権は9日、イスラエルに戦車搭載の弾薬を売却すると発表。緊急性が高いと判断し、売却に必要な議会の手続きを省く異例の措置だそうです。

イスラエルを支持することは、米国が国際的に孤立する方向に進むことになり、この問題が長引けば、米国の国際的な指導力は低下し、中国やロシアに有利な国際環境が形成される可能性があります。

米国がこの状況をどう変えることができるのか、ますます中東情勢から目が離せません。

12月5日には飯田将史先生の「習近平政権の対米政策」シリーズ第5弾が公開されています。現在の米中関係を分析するうえでベースとなる習近平政権の対米政策の基本の部分を理解することができます。是非ご視聴ください。

また12月16日(土)の「第50回外交・安全保障月例セミナー」では、報道カメラマンの横田徹さんをお招きして「戦争取材を通じて考える戦争の本質」というテーマでご講演いただきます。こちらも奮ってご参加ください(https://forms.gle/PNAUw3xSGN5tLvES7)。

「世界は今、100年に一度の大きな変動期を迎えています。今こそ歴史や地政学をはじめ、国際政治や安全保障を基本から学ぶことが必要になっています。
今後とも一緒に学んでいきましょう!

菅原 出

OASIS学校長(President


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