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ハマス・イスラエル「戦闘休止」合意の行方

イスラエル ハマス 学校長 飛耳長目 Dec 01, 2023
連載コラム|菅原出飛耳長目

こんにちは!オンラインアカデミーOASIS学校長の菅原出です。

戦闘休止延長で合意したハマスの狙い

11月27日、イスラエルとハマスの一時「戦闘休止」合意の期限切れとなる数時間前に、カタールの高官が「合意の2日間延長」を発表しました。

イスラエル軍は27日夜、ハマスが拘束する人質のうち、第4弾としてイスラエル人11人が解放されたことも明らかにしました。イスラエル側も、拘束していたパレスチナ人の女性や未成年者33人を新たに釈放、これまでに釈放されたパレスチナ人の数は計150人に上っています。

24日に始まった現在の合意では、ハマスが拘束する人質50名、イスラエルが収監しているパレスチナ人150名をそれぞれ解放する約束になっていましたが、ハマスは最大で人質100名、イスラエルは収監しているパレスチナ人300名まで釈放する準備がある、と伝えられていますので、その上限に達するまで合意期間が延長される可能性はあるでしょう。

では、このまま戦闘休止が延長されて「停戦」まで進み、戦争が終結するのでしょうか?残念ながらそうはならない可能性が高いと思われます。

ハマスにとっては、人質解放交渉に相手を引き込むことで攻撃を止めさせることは当初からの狙いだったと考えられます。そもそも人質をとったということは、人質をカードとして相手を交渉に引き込むことが目的だったはずです。

実際ハマスは、今回の戦闘休止の合意に至る交渉で、イスラエルが収監しているパレスチナ人の釈放、人道支援物資の搬入だけでなく、そのための戦闘休止や期間中のイスラエル軍によるドローン偵察任務の短縮など、様々な要求を認めさせています。

今後もハマスは、人質を小出しに解放することで、戦闘休止を停戦へと引き上げ、自分たちの能力温存をはかろうとするでしょう。イスラエルが米国や国際的な圧力にさらされ、経済的にも疲弊し、ハマスがガザの地下施設で息を潜めている間に、誰もが疲れ果てて家に帰ることを待つのが、ハマスの狙いだと思われます。

ハマスは引き続き10名の米国籍の人質を拘束しています。彼らは米国人の人質をカードにしてバイデン政権の関心を惹きつけ、イスラエルに圧力をかけさせて戦闘休止をさらに延長させることを狙うでしょう。

米国とイスラエルの思惑にズレ

米政府も、停戦を求める国際的な圧力が強まる中、イスラエルやイスラエルを支持する米国内の勢力との対立を回避しながら、戦闘休止を長引かせ、ハマスとイスラエルの人質解放交渉を停戦交渉にまで向かわせることを狙っていると思われます。

一方、イスラエルは、これまで「ハマス殲滅」の目標達成のため、軍事的対応を優先させてきたのですが、もう一つの目標である「人質救出」の成果がでないことに対する国内の不満、とりわけ人質の家族からの政権批判が強まっていました。また、停戦や戦闘休止を求める米国や国際的な圧力の高まりも受けて、ネタニヤフ政権はハマスとの人質交換に同意したのだと思います。

ただし、イスラエルにとって、人質解放交渉で戦闘が長く中断され、戦争が長期化してしまうことは、軍事的に見てマイナスに働く可能性があります。

ましてや、このまま戦闘休止が延長され続けて、さらに「停戦」に向けた交渉に持っていかれた場合、「ハマス殲滅」の目標は遠のいてしまうでしょう。26日にネタニヤフ首相がガザを訪問し、前線の兵士たちに「勝利するまで戦闘を続ける。誰も我々を止められない」と語り、バイデン大統領との電話会談でも、ハマス掃討作戦継続の決意を強調したのはこのためだと思われます。

今後困難さ増す人質解放交渉

イスラエルが狙うハマス軍事部門の指導者ヤヒヤ・シンワールはじめ、同部門の幹部たちはガザ南部の地下施設に潜んでいるとされています。イスラエル軍にとって、ガザ北部の後、南部のハマスの拠点を破壊し、ハマス幹部を殺害もしくは拘束することは、目標達成の最低ラインだと思われます。

イスラエルにとって、ガザ地上侵攻作戦はこれからが大変なフェーズに入り、作戦は南部に移行していくことになるでしょう。しかも、南部への攻撃に際しては、バイデン政権も「民間人被害を最小限に抑えるように」とこれまで以上に厳しく注文をつけています。つまり、北部でやったのと同じような作戦はしないように、とイスラエルに圧力をかけているのです。

イスラエルは、この一時戦闘休止の時間を最大限に使い、ガザ南部侵攻作戦の準備を進めているものと思われますが、米国の圧力がどこまでイスラエルの作戦に影響を与えられるのか、今後の攻撃に注目したいと思います。

また、これまでの人質解放交渉は、ハマスが拘束している女性や子どもが対象で、イスラエルが釈放を認めたのも女性の収監者や18歳未満の少年ばかりでした。しかし、これからはハマスが拘束しているイスラエル兵の解放交渉も加わってくることになるでしょう。そうなれば当然、イスラエルが収監しているハマスの「大人の」戦闘員たちが釈放の対象になるでしょうから、これまでのように簡単には行かなくなるでしょう。

収監している受刑者を釈放するには、イスラエルで閣議決定を通す必要があり、また、受刑者の被害者の家族も裁判所に申し立てをすることができるため、そのプロセスは容易ではありません。今後交渉が続けられるとしても、それは一筋縄ではいかず、停滞して戦闘再開、また戦闘休止のような長いプロセスが続くことが予想されます。

ハマスにとって、イスラエルが人質のことも民間人の犠牲者のことも一切気にせずに攻撃してくることが「もっとも望ましくないシナリオ」になります。イスラエルとしては、「ハマスが望まないこと」をすることでハマスに圧力をかけ、妥協を強いるのが常套手段です。ですから、戦闘休止の後、イスラエルが戦闘を再開させ、ハマスに圧力をかけてくる可能性は高いと考えられます。

もしそうならずにさらに戦闘休止が続けられた場合、状況はイスラエルに不利な方向に進んでいると考えるべきでしょう。

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菅原 出

OASIS学校長(President


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