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OASIS学校長 菅原出の「飛耳長目」 - 2022年12月29日

学校長 飛耳長目 Dec 29, 2022
菅原出の連載コラム「飛耳長目」

こんにちは!オンラインアカデミーOASIS学校長の菅原出です。

12月16日に、「国家安全保障戦略(NSS)」と「国家国防戦略」そして「防衛力整備計画」の三文書が閣議決定されました。

2013年に策定されて以来の「国家安全保障戦略」は、過去10年間の国際情勢の変化、とりわけ、第二次世界大戦以降米国が主導し形成・維持してきた国際秩序がガタガタと崩れている現状を踏まえた現実的な内容になっています。

現在の国際情勢を俯瞰した冒頭の記述は、日本の優秀な官僚の皆さんが検討を重ねて作成しただけに読み応えがありますので、皆様是非ご一読ください。

重要のポイントはたくさんあるのですが、ここではいくつか興味深い点だけ指摘したいと思います。日本政府はこのNSSにおいて、中国を「これまでにない最大の戦略的な挑戦であり、我が国の総合的な国力と同盟国・同志国等との連携により対応すべきもの」と書いています。どこからどう読んでも、中国を日本にとって安全保障上の最大の脅威と位置づけているのです。

これだけ日本政府が政策文書の中ではっきりと脅威を位置づけたのは近年では例がないと思います。非常に画期的だと言えるでしょう。

さらに、NSSで日本政府は、安全保障上の脅威に対して、第一に外交力で対応するとし、第二に防衛力の強化で対抗すると述べています。しかも、防衛力整備においては、「強力な軍事能力を持つ主体が、他国に脅威を直接及ぼす意思をいつ持つに至るかを正確に予測することは困難である。したがって、そのような主体の能力に着目して、我が国の安全保障に万全を期すための防衛力を平素から整備しなければならない」と書いています。

さりげなく書かれているので、そのまま読み飛ばしてしまいそうですが、非常に重要な点が含まれています。NSSは、脅威対象の「能力」に応じた防衛力を整備するという国際基準のアプローチをとることを、明確に記しているのです。もちろん、日本が「普通の国」に向けてやっと大きな一歩を踏み出したという点で歓迎すべきでしょう。

最後に気になったのは、「我が国の安全保障を支えるために強化すべき国内基盤」の強化の3番目に位置づけられた「知的基盤の強化」についての記述です。

NSSは、「安全保障における情報や技術の重要性が増しており、それらを生み出す知的基盤の強化は、安全保障の確保に不可欠である。そのような観点から、安全保障分野における政府と企業・学術界との実践的な連携の強化、偽情報の拡散、サイバー攻撃等の安全保障上の問題への冷静かつ正確な対応を促す官民の情報共有の促進、我が国の安全保障政策に関する国内外での発信をより効果的なものとするための官民の連携の強化等の施策を進める」としています。

安全保障を支える知的基盤というのであれば、そもそも国際情勢に関する認識や軍事・安全保障に関する正しい知識の普及など、NSSで議論されている内容を理解できる国民を増やすことが先決でしょう。

ここからは勝手な思い込みです。NSSを読んで、やはり、OASISの重要性が改めて確認できた、自分たちの取り組みは間違っていないと思いました。我が国の安全保障を支える知的基盤強化のためには、OASISのように一般の人が国際政治、外交・安全保障を理解するための場が必要だからです。

NSSを通じて日本政府は現実的な情勢認識と対策のアプローチをとることを宣言しましたが、具体的な政策が実現するまでには今後数年間を要するでしょう。歓迎すべきではありますが、現在の国際情勢の変化のスピードからすれば、自衛隊の防衛力が増強され抑止力が高まる前に、われわれ日本人が脅威に直面してしまう可能性は十分にあると考えざるを得ません。

日本人が直面している脅威や国際情勢の厳しさは、この戦略文書で指摘されている通りなのですが、この厳しい現実の中で、具体的な脅威を分析し、自身(自社)に対するリスクを評価し、危険を回避して生き残るためには、政府に頼りきるのではなく、自社で情報を分析・評価し、自分で考えて判断し行動する力がますます重要になるでしょう。

いずれにしても、私はOASISを通じて、日本の安全保障を支える「知的基盤」強化のため、国際政治、外交・安全保障分野の研究を志す若手人材の育成に全力を尽くそうと改めて心に誓いました。

今後とも、変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。

12月24日には奥山真司先生の「地政学で読む国際情勢④ドイツ地政学」が公開されています。是非ご視聴ください。

世界は今、100年に一度の大きな変動期を迎えています。歴史や地政学をはじめ、国際政治や安全保障を基本から学ぶことが、今こそ必要とされています。

是非一緒に学んでいきましょう!

菅原 出
OASIS学校長(President)


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